第32話 さざ波

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第32話 さざ波





 冬の夕焼けは、高層ビルのはるか遠くの空を紅に染めた。
 車は、街の喧騒を通り抜け、閑静な住宅街へと向かう。
 類がさっきから何か話しているけれど、あたしの耳には全く入ってこない。
 類がいなくなる、今のあたしには、それがすべてだった。

「牧野、聞いてる?俺の話」
「あ、ああ、ごめんなさい」

 動揺を隠しきれないあたしに、類が、ちらりと視線を向ける。
 悲しすぎて言葉にすることもできないから、ただフロントガラスの向こうの暮れていく空をぼんやりとみていた。
 類は、あたしと離れても寂しくないのかな。表情を変えないで話す類を見てそう思った。
 堪えてもじわりと視界が滲む。まばたきと同時に一粒だけ涙が頬を伝った。
 泣いてるを見られたくなくて、前髪で隠すように俯いた。
 その瞬間に、類の長い左腕が伸びで、あたしの頭を肩を寄せ撫でた。

 「泣くなよ」
 「だって.....」
 「本当は、俺も不安だよ。牧野のそばには、あいつもいるし。俺のいない間にどうにかなったらどうしようとか」
 「あいつ....って、鳴海君のこと?」

 そうだよと類が不機嫌にな声で答えた。たまに見せる類の子供みたいな表情。

 「大丈夫だよ。あたし、ちゃんと類が好きっていったから。そしたら、あたしが幸せになる様に見守るって。昔の類みたい」

そういったあたしに、

 「俺?じゃぁ、そういうのが一番危ないんだよ」

 わかってるだろ、とばかりに呟いたから、そんなことないよって、あたしは笑いながら答えた。
 あたしは、知っているよ。8年間も、ずっとあたしを見守ってくれたこと。大切にしてくれたこと。だからこそ、あたしは類を受け入れたんだから。



 鉄製の門を抜けてエントランスに入り込むと、美作さんが出迎えてくれた。
 あたしたちが通されたのは、美しいブルームーンの温室が見える部屋だった。
 この前、鳴海君たちと来た時は違う、その部屋は、特別なプライベートスペースになっていた。

「二人とも、明日はやすみだろ。ゆっくりしてくれ」

 美作さんが、そういって、あたしに微笑んだ。
 次々と運ばれてくる食事はどれも、見た目も美しく美味しそうなものばかり。
 類と美作さんは、話に夢中で、あたしは食事に夢中になっていた。
 だって、こんなおいしいものは普段は食べれないから。

「俺のも、どうぞ」

 と類が自分のメイン料理のプレートを、食べ終わったあたしの皿と取り換えた。

「牧野は、相変わらず色気より食い気だな」
「それがいいんだよ。美味しそうに食べるから見ていてこっちも嬉しくなる」

 類のナイスフォローに、惚気るなと美作さんが突っ込んだ。
 少し食事も落ち着いた頃。

「あきら、お願いがあるんだけど」
「類のお願いって珍しいな」

 類は、少しの沈黙の後、イタリアへ行くこと話し始めた。
 そして、その経緯も。
 美作さんは、驚いたようだったが理解しようとしてくれた。
 あたしと類の今の関係までも、理解するという。

「あきら、俺のいないとき、牧野に何かあったら力になってあげて欲しい」
「それは、わかった。それより、鈴ちゃんはどうするんだ」

 類は、少し憂鬱そうな表情を浮かべた。

「婚約は解消してもらう。すぐには無理かもしれないけど。昨夜もそのことで揉めた。でも、鈴を一方的に放り出すことはできないから。わかってくれるまで説得するつもりだよ」

 類にとって鈴音さんが特別な人に変わりないことは、あたしも理解しているつもりだけれども、やはり、彼の口からそれを聞くのはつらいものがあった。
 美作さんも、そんなことができるのかと疑心暗鬼だったけれども、類がそういうのだから仕方がないとそれ以上の追求はやめた。

「年が明けて準備ができ次第、向こうへ行くつもりだから、あきらとはしばらく会えなくなるな」
「まぁ、もとからそんなに会ってるわけでもないけどな。牧野のことは、たしかに引き受けた」

 美作さんは、あたしのほうを見て

「何も起こらなけれないいんだけどな。牧野、お前は、類を信じて待ってるだけでいいからな。余計なこと考えたり行動しないように。必ず俺に相談しろよ。いいな」

 まるで、子供に諭すような口調で言った。



 帰り車の中で、ふたりで、年末年始の予定を立てた。
 特別なことは、何もないけれど、あたしは、明日の約束が欲しかった。

「ずっといるよ。牧野のそばに」

 そういってくれる類の気持ちはうれしかったけれど、類が時々スマホを確認するたびに、なんだか悲しくなる。さっき類が美作さんに言っていた。今日は1度もスマホに、鈴音さんからのアクションがないこと。あんなに、いつもしつこい位に着信があったのに。
 類が、それを気にしている。そのことに嫉妬しているのは、あたし。それを悲しいと思ってしまう自分。


 今日の海を思い出す。
 遠い昔の類の姿。小さな貝殻を握っていた大きな手。

「あの貝殻、まだ持っている?」

 本当は、そう聞きたいけど、怖くて聞けない。
 持っていないといわれるよりも、そんなことあった?って聞き返されるのが怖かった。

「類、あのね.......」
「ん、何?」

 優しい瞳を向けられて、言葉を止めた。

「ううん、なんでもないよ」

 あたしの胸の中で満ちては引く、小さな心のさざ波を類はきっと感じている。
 だって、類の左手があたしの右手にそっと重なったから。






今日も来てくださってありがとうございます。二人の時間を今は大切に絆を深めて欲しい。

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2019/03/14 (Thu) 10:26 | EDIT | REPLY |   

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2019/03/14 (Thu) 11:52 | EDIT | REPLY |   

類大好き  

牧野つくしは雑草のつくしだったはず。
踏まれても負けない。
頭もいいし、周りの人を惹き付ける魅力を持った。そんなつくしだから、類は好きになったのに。今のつくしには類が好きなつくしじゃないよ

2019/03/14 (Thu) 17:38 | EDIT | REPLY |   

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2019/03/14 (Thu) 18:29 | EDIT | REPLY |   
sirius

sirius  

ず*さんへ

こんばんは^^
ぎゃ~、ず*さん~、それを言ってしまっては、ほんとですよね。トラブル起こしそうですもんね。
類が、かわいいですか~!類の大人かわいい感じいいですよね。
っていうか、うちの類君は、完全に原作から離れてしまってるので、私の頭の中の類君ですからね。
貝殻のお話は、神尾先生の書いた、スピンオフのお話ですよ。
そこで、類とつくしがふたりで海へ行くシーンがありますので、私の妄想ではなく、原作であったことです^^
それをちょうどいいので入れされてもらいました。

2019/03/14 (Thu) 19:01 | EDIT | REPLY |   
sirius

sirius  

お**さんへ

こんばんは。
あきらくんは、大人ですよね。私の中では、やっぱり頼れる方です^^
今回は、総ちゃんと類は、因縁関係なので、あきらくんを類の味方にしました。
鈴ちゃんは、泣いてるんじゃないかな。どうだろうね。鈴ちゃんなりにがんばってるのかもしれないし。
心が揺れるのは、全員同じですね。こめありがとう。

2019/03/14 (Thu) 20:41 | EDIT | REPLY |   
sirius

sirius  

類大好きさんへ

こんばんは。
そうですね、わたしは、類がつくしのことを好きになった理由は、つくしが一生懸命に生きているの見て好きになったんだと思っています。泣いたり、笑ったり、怒ったり、類に欠落していた人間らしい感情をつくしが持っていることで、それをみて、類自身も変わっていっている。これは、原作で類自身が言っていますけどね。もちろん、雑草パワーもね。踏まれても負けない、頭もいい、周りを引き付ける魅力、静さんも同じです。静さんは、憧れでつくしは恋愛感情。この決定的な違いはなんでしょうかね。
Let's think^^ その答えの違いが、それぞれの作家様や、読者様の世界観の違い。二次創作のたのしさです^^

2019/03/14 (Thu) 21:08 | EDIT | REPLY |   
sirius

sirius  

l***さんへ

こんばんは。
あきらくんは、やさしいですね。お兄さんみたいな。まとめ役ですね。そうですね、不安定だからよけ心配ですね。
何一つ解決していないでのミラノ行きですが、でも、それが類には、いろんなことを見直す、よいきっかけにいて欲しいです。
そろそろ過去の出来事を全てオープンにする時期になってきました。コメありがとう。

2019/03/14 (Thu) 23:07 | EDIT | REPLY |   

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