第75話 2人の男

Inclusion
第75話 2人の男



 目覚めた気分はどう?

 俺の挑発ともとれるその一言だけで、司はすべてを理解したようだった。
 一瞬の沈黙の後、

「ああ、悪くはねぇな。類、お前はどうだ?」

 スマホ越しに、クッと喉の奥で司が笑う。

「俺は、最悪」
「ほう、なぜ?」

 自分は余裕だ、というような司の態度に、多少のイラつきを覚えた。

「よくいう。ワイナリーとセルサイエンスの件、邪魔したのは、お前だろう」

「そんなにムキになるんじゃねえよ。珍しいな、そんな顔をしたお前を見ることができるなんてな」

 その声が、スマホから聞こえたのと、直接の声とダブって俺の耳にはいった。

「司!?」

 自室のドアが勢いよく開き、目の前に司が立った。
 なんて派手な登場の仕方だと唖然とする。ヴィオラが危険を感じたのか、一瞬、俺に寄り添った。


「お前の会社のセキュリティーは、役立たずだな」

   ここまで、顔パスだったと不敵な笑みを浮かべる。
 ブラックスーツに身を包んだ司は、相変わらずの好戦的なオーラを放つ。
 ヴィオラは、即、冷静にPCの電源を落とした。
 この調査データーは、だれにも見られてはいけない。
 俺と司は、同時にスマホから耳を離した。
 視線は、外れることなく互いの腹の探り合いが始まる。

  俺の後ろに隠れるように佇んだヴィオラに、司が鋭い視線を移し目を細めるが、すぐに、また俺を睨みつけた。

「その女は?」
「ヴィオラのこと?俺の秘書だよ」
「秘書なんか牧野にやらせればいいだろう」
「そうはいかない。牧野は俺の婚約者だから。俺は、職場に女は持ち込みたくないんだ」

 俺と彼女の今の関係を、あえて司の前で投げかけると、やはり顔色が変わる。
 もともとポーカーフェイスは、司には向いていない。
 そういうところは、昔と同じ。よくも悪くも、すべてが顏に出てしまう。

「司、何のためにここに来た?わざわざNYからジェットを飛ばしてまで」

 司は、舌打ちをして眉を顰めると、どっかりと目の前のソファに腰をおろした。そして、ゆっくりとその長い脚を優雅に重ねる。

「俺が、牧野を取り戻しに来たとでも?」
「記憶が戻ったんだろ。で、どうしたい?今、彼女は俺のものだよ」

 その言葉に、司が黙り込む。

「司が、牧野にしてきたこと、忘れてないよな。お前は、彼女を徹底的に拒んだ。そればかりでなく、どんな目で彼女を見てきた?」

”誰だ、お前。類の女か?” 

 そんな言葉を何度、牧野に浴びせた?凍てつくような視線を向けて。そのことで彼女の瞳が潤むのを何度、俺に見せた?
 そう、俺たちは、ずっとそうして過ごしてきたんだ。忘れたとは絶対に言わせない。

「わかってる。俺が牧野にしたひどい仕打ちも。自覚はある。だから、俺は記憶が戻っても、あいつとの接触はしなかった。お前が、一緒にいたのを知っていたから」

 そのための半年の猶予か?という問いに、司は、頷いた。

「で?今更、彼女のことが欲しくなった.....そういうことか、司」

「俺は、失った記憶のすべてを取り戻したい」

 司に忘れられた牧野と過ごした俺の時間。今度は、司が牧野との時間をやり直したいというのか。
 でなければフェアではないと。
 そのすべての記憶を取り戻してどうするつもりなのか。

 だからこそ、俺に会いに来て、その許可を得ようとした。
 牧野が今、俺の婚約者だから。

 俺だって、本当はわかっている。司が好き好んで牧野を忘れたわけでないということも、司に罪があるわけじゃないことも。俺にそれを責める資格なんてないということも。

「無理な話だ、と言いたいところだけれども、それは牧野が決めることだから。牧野が司との時間をやり直したいというなら、俺は止めない」

「牧野に会わせて欲しい」

 その言葉に全身の血が逆流するように何かがせり上がってくる。怒りでもない、悲しみでもない。苦笑にすらならないこの苦々しい気持ち。自分の表情が歪むのが抑えられない。
 それを司が気づかないわけがない。
 しかし、司が俺に向けたのは、懇願するような漆黒の瞳だった。らしくない。
 遠い昔、あのときの持て余すような司の牧野に対する熱量。牧野が向ける笑顔のすべてを司が思い出してしまったのならば。
 昔の司なら、無理やりにでも牧野を奪いに来ただろう。当然のごとく、自分が正義だというような男だ。
 しかし、そうしないのは、牧野の孤独を支え続けた俺への配慮か。
 それだけの時間が流れたということだ。そして、俺たちは、もうあの頃のような子供じゃない。

 そして、俺もまた、鈴とのことで牧野を苦しめた。そのこともすべて司は、理解したうえでの言葉だろう。

「.......わかった。俺から牧野に伝えるよ。あとは彼女が決めることだ」
「類、お前には感謝している」
「何の感謝だよ。やめてくれ、そういうの。司らしくない。それに、俺は簡単に牧野を手を離すつもりもないから。それだけは言っておく」

 俺の牽制の言葉に、司は、だた そうか....と漏らしただけだった。
 今ここで、俺と司がやりあったところで、何の答えも出ないし解決もしないことをお互いがわかっていた。これ以上の話し合いは無駄だということ。
 俺たちの会話に、終わりがみえたところで、司の秘書である西田が血相を変えて部屋にはいってきた。

「司さま!飛行機の時間です。急いでください。会議に遅れてしまいます」
「うっせーな!バタバタするな西田!わかってる」

「ヴィオラ、二人を見送ってきて欲しい」

 慌ただしく3人は部屋をでた。一人残った俺は、大きく開かれた窓から天を仰ぐ。

 彼女を、失うかもしれない。
 かつて愛した男である司を、牧野はどのように思うのか。
 彼女の心の奥底にいまだ残っている司への想い。
 俺は、それに気づいている。この8年間消えることはなかった。

 彼女がしあわせになるのなら、どんな選択でも受け入れる覚悟はある。
 その一方で、彼女を深く愛している。この腕につなぎ留めたいとう情熱が俺の中で消えないままだ。
 司からの、この伝言を彼女にどう話そうか。窓から見える暮れ始めた空に、ため息を一つ零した。

 





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2019/06/12 (Wed) 08:01 | EDIT | REPLY |   

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2019/06/12 (Wed) 08:07 | EDIT | REPLY |   

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2019/06/12 (Wed) 10:00 | EDIT | REPLY |   

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2019/06/12 (Wed) 10:22 | EDIT | REPLY |   

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2019/06/12 (Wed) 11:09 | EDIT | REPLY |   

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2019/06/12 (Wed) 11:27 | EDIT | REPLY |   

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2019/06/12 (Wed) 17:21 | EDIT | REPLY |   
sirius

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ず*さんへ

こんにちは。
そそ、堂々としたド派手な登場な俺様です。司くんに姑息な戦法は似合わないなと思い、正面から挑んでもらいました。
類に義理立てするあたりも少し大人になっていますというか、現時点でバリバリお仕事している設定の司君なので立派なはずですが,これがどこまで続くかは.....なのです^^
コメありがとうございます。

2019/06/13 (Thu) 16:08 | EDIT | REPLY |   
sirius

sirius  

悠*さんへ

司君、つくしに会えるのでしょうか?
いや、会わないと終わらないんですけど。
少し間をおいて、再登場します。また、インパクトのある登場を考えております^^
やっぱりド派手な坊ちゃんが私は好きなので。

2019/06/13 (Thu) 16:10 | EDIT | REPLY |   
sirius

sirius  

l***さんへ

こんにちは、
俺さまな司君は好きです。最近は、俺様&悪い男がど真ん中になっています。さらに、この司君に包容力が備われば敵なしなのですがね。いかんせん、ここは類つくのお部屋ですので^^
誰も悪くないのに、みんな苦しい。
つくし次第なのですが、やっぱりそれぞれが納得して欲しい。類のことが好きなの、道明寺ごめんね、と言葉だけで簡単に終わらせたくないと思っています^^
類つくなのでね、そうなるにしても、その過程を自分なりに消化させたいなと思っています。

2019/06/13 (Thu) 16:17 | EDIT | REPLY |   
sirius

sirius  

お**さんへ

こんにちは。
そうですね~。類が鈴を選んでいたら、迎えに来た司とつくしでうまくいっていたのか?
いや~、どうだろう。微妙ですね。すでに、類への想いを心に残していましたからね~。つくしちゃん。
そういうエンドも有りといえばありかもですね。
相変わらず、類は鈴には甘く、シスコン気味ですからね。しっかり気にかけてるし。
類は、司より相当な不純物(inclusion)を内包してますからね。今ばかりは、王子とは程遠い男です。
コメありがとうございます。

2019/06/13 (Thu) 16:24 | EDIT | REPLY |   
sirius

sirius  

ル*さんへ

こんにちは、
そうですね、類も司もつくしを第一に考えれるぐらいの男に成長しています。
少なくとも、彼らはもう高校生ではなく大人です。大企業を動かすほどのステータスまで成長していますので。
赤札貼って親のお金でやりたい放題していた頃とは違います。
ああ、やっぱり類も司もいい男だなと思えるようなエンドを迎えられたらいいなと思っています。
コメありがとうございました。

2019/06/13 (Thu) 16:30 | EDIT | REPLY |   
sirius

sirius  

金**さんへ

こんにちは。
いあいあ、ほんとうにごもっともです。
失った時間を取り戻すのは、無理なんですよね。といいつつも、私は、司にその時間を与えたいと思っていますよ。ふふっ。
類には、申しわけないけれど....類にももう一度、自分の心と対峙してもらうつもりです^^
私流のやり方で、この二人の、いや3人か?着地点を見出したいと思っています。わたし、類のことが好きなの、ごめんなさい。を簡単につくしに言わせるつもりはありません^^その言葉の重さをつくしにしっかりとわかって貰おうと思います。
コメありがとう~。今回も、う~むと唸るコメントでした^^

2019/06/13 (Thu) 16:38 | EDIT | REPLY |   
sirius

sirius  

カ*****さんへ

こんにちは。
そうなんですよ!!そこ!
鈴の存在。ここまで私が、無理やり?類のそばに置いているのには理由があるんです。
カ******さんの思っている通り。もろにそういう方向ではないですが、すごく近いです。
彼女の後半の役割は、まさにそこなのです~。彼女が天使になるか、悪魔になるか?それは、つくし次第かもしれませんね。
静はね、悪女です←きっぱり。コメありがとう^^

2019/06/13 (Thu) 16:43 | EDIT | REPLY |   

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