第97話 ARASHI

Inclusion
第97話 ☆恋の嵐☆






 バラの香りと木々の囀りの中で目覚めた。
 あたしは一人、広く白い部屋のベッドの上にいた。

 背中を一筋の汗が伝う。
 
 夢をみた。それは、遠い昔に何度も見た夢。広いこの屋敷の真ん中に、道明寺がたった一人で立っている。なんて寂しくて悲しい夢なんだろう。

 マンハッタンから少し外れた場所にある、道明寺の邸。まさか、再びこの門をくぐることになるとは。

 8年前のあの日、あたしは、道明寺を追いかけてこの屋敷に一人乗り込んだ。
 帰れと冷たく返された声。差し伸べて欲しかった手。
 それは、まるで昨日のことのように、忘れかけていた苦い思い出が蘇る。

「また来てしまった.......」

 過去の悪夢を振り切るように、あたしは、ベッドを降り、窓際に立ち赤いバラが咲き乱れる庭を見た。
 そこには、まるであの日の続きのような光景が広がっている。

「牧野」

 後ろから名前を呼ばれ、振り返るとそこには、昨夜この場所にあたしを招き入れた張本人が立っていた。

「道明寺......」

 部屋の入り口のドアの前に立つその男は、柔らかな笑みを口元に浮かべていた。

「そのようすだと、少しは落ち着いたか」

 道明寺とNY行きの飛行機に乗ることを、あの場で決めたあたしだったけれど、果たしてこれでよかったのかとフライトの間中ずっと考えていた。
 昨夜、涙は止めどなく流れた。道明寺と向き合うために、こうしてここにいることが類への裏切りになるのではないかと。その心を思えば思うほど、無力な自分を責めた。

 道明寺もまた、昨夜は、なにも話してはくれなかった。
 あたしの他愛もない話に耳を傾けるだけ、けれど、それは、予想外な穏やかな時間だった。

 空港で類に助けを求めるために送ったラインは既読にならないまま。放置されていた。徐々に焦りだす心。



 
「失礼いたします」

 メイドが、モーニングティーを二人分用意してきた。
 手際よくテーブルに並べられたカップを前に、道明寺が椅子に腰かけた。

「お前も、来いよ」

 そう言われてあたしは、ゆっくりと席に着いた。
 互いに、何から話したらいいのかと探るように沈黙した。
 昨夜の大胆さは、影を潜め、目の前の紅茶を一口含んだかと思うと、

「昨夜は、すまなかった」

 唐突に誤りの言葉が出た。

 何のことかと、こっちが不思議な顔をすると、突然抱きしめてしまったことだと言う。何か、気の利いた答えを返そうかと思うが、逆にそのときの温もりや香りの余韻がまだこの躰に残っていることに気付かされる。

「き、気にしてないから」と震えた声で何とか答えた。

 そして、きちんと話さなければいけないと、あたしは、改めて背筋を伸ばす。

「記憶が、戻ったというのは本当なのね」

 真っすぐな視線を向けると、見つめあうように視線を返された。

「ああ、本当だ。だか、まだ完全に.....というわけではない。まるで霧が晴れるように、お前のことを思いだした。しかし、同時になんとも言えない生温い場所に立っているような妙な感覚にもなる」

 昔の道明寺からは、想像もつかないような落ち着いた言葉を話し、愛おしむような、そんな表情であたしを見つめる。

「あれからどれほどの月日が、流れたことか」

 そう話す彼が遠くを見るように視線を宙に浮かす。

「すまなかった。俺は、どれほどお前を苦しめた?お前のことを忘れてはいたが、その間に俺がお前にぶつけた数々の仕打ちは、しっかりと覚えている」

 かつて高慢だった男が、テーブルにその額がつくほどに、深く頭を下げる。

「やめてよ。そういうのアンタらしくない。謝って欲しくて、あたしはここに来たわけじゃない」

 事故だったのだ。誰も責めることなんてできない。
 自分は、あの8年前に苦しんだ。そして、それから長い時間をかけてその苦しみからやっと解放されたのだ。愛する人に忘れられても、一人になったあたしを類が守ってくれた。ずっと、その心を隠しながら。だから、あたしは、一人ではなかった。

 けれど、今記憶をもどした道明寺は、これからこうして過去のあたしのように苦しまなくてはいけない。あたしには、類がいてくれた。けれど、あんたは一人で.......。たった一人でその苦しみに耐えるの?

 涙が零れた。
 かつては、身を焦がすほど愛した男だ。
 押し込めた想いの破片が、まだ、あたしのこの心に刺さったまま残っている。

 あの船の上で、無人島で共に、感じた想い。
 あのとき、あたしは、この男を好きだと荒れ狂う嵐の中で叫んだ。
 離れるのは嫌だと、叫んだのはあたしだった。
 彼のこの手以外必要なものは何もないと、他に何もいらないとそう思ったのはあたしだ。

 思い出してしまったこの感情をあたしはどうすればいい?

「ごめんね、道明寺」

 自分だけが不幸だと思っていた。でも、それはちがった。
 あの日からの自分の選んできて道が、間違っていたように思えた。

 
 
 類........あたしは、どうしたらいいの。
 
 

 


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2019/07/11 (Thu) 10:43 | EDIT | REPLY |   

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2019/07/11 (Thu) 14:15 | EDIT | REPLY |   

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2019/07/11 (Thu) 18:34 | EDIT | REPLY |   

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2019/07/12 (Fri) 12:12 | EDIT | REPLY |   
sirius

sirius  

悠*さんへ

こんばんは
桜子や優紀ちゃんは、なかなか潔いですからね。
つくしは、意外と原作でも類と司の間をふらふらしてる感がありましたね。そういえば。
主人公だからしかたないのですね。逆ハ―の代名詞ですもんね。
コメありがとう。

2019/07/12 (Fri) 18:45 | EDIT | REPLY |   
sirius

sirius  

l***さんへ

こんばんは。
そうなんですよ!司らしからぬ?落ちつきようというか、高校生ではないのでね。さすがに....しかも、司君、すでに自覚持って仕事してますから、大人なんですよ。つくしの記憶が抜け落ちていただけで、成長はしているという設定です。暴れん坊には、なっていません。が、やっば乱暴なとこはあるようですが。時間の経過は怖いですね。
類は、つくしがこうなることはわかっていたと思います。そのうえで、司のもとに送り出しているのでね。
最悪、戻って来ないことも想定内かもしれませんね。つらいですけど。コメありがとう^^

2019/07/12 (Fri) 18:50 | EDIT | REPLY |   
sirius

sirius  

お**さんへ

こんばんは。
記憶喪失、忘れられたほうも悲しいですが、このように長い時間が過ぎて思い出したとき、その変化に耐えなければいけない司の気持ち、そこを少し掘り下げています。
類とつくしの恋を応援するあまり、忘れがちですよね。類は、それを見込んでつくしを司の元へ送り出しています。類もいろんなことがあって大人になってますよね。関係ない!とか言っていた昔が懐かしいほどに。
高校生のあの頃ではなく、今はみんな大人になったお話ですので、いろいろ想像しながら書いてます。
いつもコメありがとう^^

2019/07/12 (Fri) 18:54 | EDIT | REPLY |   
sirius

sirius  

匿名様

こんばんは。初めましてかな。
私のこのお話の世界観から、3人の関係をそのような過去の実際にあった歴史にリンクさせるということは、匿名様は、私よりご年配の方でしょうか?その文面から、当時の恋人や夫婦の感情が、一気に私の中に入り込みました。
長い年月が厳然と存在する、そうなんです。記憶を失っていようがそうでなかろうが、平等に時間は過ぎていきます。3人3様の葛藤を抱えていることも確か。匿名様が感じたような歴史を意識せずに書いていましたが、そのように読んでいただけるとは、ある意味光栄です^^。司の感情を少なくともここでの類は、切り捨てることはできません。ご察しの通りです。
類と司を戦わせるような愚行も、このお話では、させたくなかったというのが本音です。そのために、類には辛い思いをさせていますし、つくしには、迷い悩んでもらいます。そして、司には.....。私なりのエンドを、ああ、そうなのか....と理解していただけるとありがたいです。コメありがとうございました。

2019/07/12 (Fri) 23:45 | EDIT | REPLY |   

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